それは、ボンゴレ10代目がボスに就任する一週間前に遡る。
ボンゴレ10代目は、とある守護者と話をすると言って部屋に入った。
それから、二時間後に一発の銃声がボンゴレの所有する屋敷に響き渡った。
他の守護者と彼のお守り役であるアルコバレーノが入ると、ボンゴレ10代目 とその守護者が向かい合わせに立って居た。

その間に、見知らぬ男が一人こめかみから血を流して死んでいた。



U.N.オーエンは誰だったのか?



「あれは誰が殺したんだ?」
「んー」

黒ずくめの男が日を遮るように立っていた。
逆光と帽子で顔は伺えない。
ボンゴレ10代目は、大きく伸びをして再び書類に向き合った。

「おめぇ、骸と何があった」
「なんにも?」
「あの、面の皮でしか出来てねぇ男が大人しくおめぇの言うこと聞いてんだ」
「気が変わったら、いくらでも裏切って良いって言ってある」
「真性の馬鹿だな」

ガリガリと、万年筆が書類を駆け抜けて行く。
そして、書類一つ不承認の箱に入れる。
リボーンは、この教え子がある意味でボスとして自覚したのは あの殺しの時だと思っている。 それは、ボス就任の一週間前に守護者のみを集めて集会をした。 そして、それは起こった一通り議題が終わると、ボンゴレ10代目 は霧の守護者と話をしたいと言った。
クロームではなく、六道骸と。
嵐の守護者と雲の守護者は反対した。 しかし、頑としてボンゴレ10代目は譲らなかった。無理やり、 霧の守護者を連れて部屋を出て鍵をかけた。

それから、どのくらい時間が経ったのか………ボンゴレの屋敷に一発の銃声が響き渡る。 部屋に入ると目の前には血まみれの男。
男には、前科があり精神鑑定もしたことがあるという折り紙付きである。自殺で処理されたが、リボーンと守護者は知っている。 銃で自殺をすると、押し付けた場所に焦げた箇所が出来る。
死体には無かった。
そして、そこ以外に傷ひとつ無かった。
リボーンは、骸が男を殺したと思っている。
教え子にあんなに綺麗な死体を作れる腕が有るはずがない。
しかし、その事についてツナは何も言わなかった。
変わったと家庭教師は思った。
こんなに頑として何も言わない生徒は過去に見たことが無かった。
ちょっとからかってやれば泣きながら有ること無いこと喋る姿が過去の事の ようだ。
今でもこずけば喋るがこの一点については、生徒は口を閉ざしたきりだ。

「俺は行くぞ」
「へ?出掛けるの」
「もう、お前に俺はほぼ必要無いからな」
「……出て行く…の……か?」
「元の仕事に戻るだけだそんな顔すんじゃねぇ」

じゃあまたな、と言えば不安げな色が顔を覆う。
表情だけは昔のままで、リボーンは何とも言えない気持ちになった。
自分のある場所に帰るだけなのに、すっかりダメになったと 心の中で自嘲した。

「骸、か」

六道骸とは曖昧な関係だ、彼は表向きは仲間でも無ければ守護者で も部下でも友人でもない。
ただのマフィアを憎む殺し屋と次期ボンゴレボス、そう思って来た。
最後に会ったのは、まさしく先ほどリボーンが聞いてきたあの日だ。
あの日、骸を部屋に呼び出したのは時々漏れてくるある噂の事だった。
噂とは、彼がとある男を買ったというものだ。
それから、度々その男が大量に人を殺し敵対組織にも出入りしているらしい。 綱吉はそれを聞いてランチアを思い出した。
彼は、骸の能力によって人生をひっくり返されたまた同じ様な事をしてい るのでは無いか? そのことを聞く為に、二人きりで部屋に籠もった。
怪訝そうな顔をする骸と反対に綱吉は、冷静に噂の事を切り出す。

「骸、お前また誰かを操って何かしようとしてないか」
「おやおや?何やら不穏な噂を、あなたの耳に入れる者が居るようですねぇ」

骸は、尊大な態度で嫌味な口調と大げさなジェスチャーを織り交ぜた。
それでも、綱吉はただ骸を見ているだけだ。

「これは重要で、俺は真剣だ」

少しの沈黙の後にきっぱりと綱吉は言う。
視線が骸と交じる、それでも怯むことのない綱吉に骸は口の端を歪め、 僅かに瞳孔が狭まる。

「クフフ、クハックハハハハハハハハハ」
「?」
「ククックフフ、君は立派なボスになりましたね綱吉くん」
「骸?」
「僕が彼の人生をめちゃくちゃにしているかどうか 、聞いてみたら如何ですか」

骸が窓辺に歩み寄り、窓を開けると男が一人入って来た。
しかし、その歩行はたどたどしくガクガクと膝が笑っている。
骸は何も言わない、男が綱吉の側へ行くのを待っているように思えた。 男と綱吉の目が合い、綱吉が押し殺した様な悲鳴を上げた。
目は口ほどに物を言う、男の目は正に何も写して無かった。
星の無い夜空だと綱吉は感じる、何もない、感情も心も精神も男には宿っ ては居ない。
ゾッとした、こんな人間が居るんだという事実を突きつけられた気持ちだ。 ふと、後ろに気配がした骸だった。
とっさに後ろを向こうとするが、骸が抱き締めて来るので動きを 封じられてしまう。

「なにするんだ」
「良いことですよ」

服の上から胸を撫でられた。自然と体が震えた、骸は綱吉の肩に首を乗せる。
チャキリと部品がこすれる様な音がした。
見ると、黒光りする金属が目の前に現れる。
それは、銃であった。
骸は、綱吉の手に銃を握らせるとその手を包み込む様に握った。
目を白黒させる綱吉とは反対に、骸は笑みを深くする。
そういえば、君は僕を味方につけたいのでしたね、絡みつくような口調で骸は楽しげに呟いた。

「君はこれからボンゴレ十代目になる、それならばそれなりの関係であった方が良い」
「意味が分からないっ!なんで………こんな……」
「二人の今後の為としか言いようが無いですね」

銃の標準を男に向ける、綱吉は驚いて骸を見た。体が密着しているせいか上手く表情を窺えない。だが、口元が笑って居るように見えた。
骸は、引き金に添えられた綱吉の指ごと引いた。銃声は屋敷に響き渡り、男は死んだ。

「ぁ………あ……」
「これで、君と僕は共犯者ですね。ボンゴレ」
「ど、うして」
「理由なんて、どうだっていいじゃないですか」

銃声を聞きつけた守護者が部屋に雪崩れ込んで来た。
そして、いつの間にか骸は消えていた。

骸が何をしたかったのか分からなかった。
分からないから、何故か知りたくなった。



六道骸は、遠い空の下に居た。
次の任務先に向かうためだ、本を片手に時折空を見上げる。
憎らしい程に澄み切った青空を見ながら、骸はある人物を思い浮かべていた。
(大空は全てを包容する……全てで無くとも良いのに) 全てに平等でなくてはいけないと誰が決めたのだろうか?
いつからだろうか、あの計画を練ったのは……。
自分は彼に植え付けたかった、絶対的なものを。 それはなんだろうと考えた時に思ったのだ。
ああ、自分が考えていたのはこういうことなのだなと胸にストンと落ちたのを思い出していた。 すると、背中に気配がした。
すぐに振り返えるとそこには、見知った男が居た。大空を背にその空にも負けないような瞳をした男だ。

「沢田綱吉」
「骸」
「何をなさってるんですか?ボスがこんな所で」
「骸、好きだよ」
「……!」
「俺は骸が好きだよ、気がついてたの?だから自分から 離そうとしてこんな事したの?」>
「何をバカな!僕は、マフィアは嫌いだ」
「気持ちに嘘は無いよ」
「いきなりそんな話を信じる訳が無い、要件は」
「俺は骸を好きでいるよ、もしかして他に好きな 人ができるかもしれない。永遠の愛を誓うなんて言わない、 だけど俺はお前が好きだよ。それでお前の好きな マフィアになってみせるよ」
「……」

ああ、なんて事だと六道骸は思った。
想いはただただ一直線の先の行き止まりでは無かった、 あの男を殺した事は後悔はしていない。
しかし、しかし彼と自分は永遠に交わらないかもしれない。
自分が初めて愛した人間への愛情表現のなれの果てがコレだ。

「一緒にイタリア帰らない?」
「はい?」
「俺は骸が好きだよ」

そう言って彼は笑った。




誰を殺したのか、何を殺したのか?



fin.





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