目を開けると見たことの無い部屋だった。
ぼんやりとした記憶をかき集めると、そうだと思い当たる事があった。
昨日は、恋人と良い雰囲気になって予約もしていないホテルに二人でな だれ込んだのだ。
(俺も汚い大人になってしまったよ、リボーン)
心の中で恩師に謝りながらも恋人の寝ている方向へ頭を向けた、 そこには枕に横たわる恋人の姿が有るはずだったが、実際にあるのは 白くて長い足だった。
すらりと長いその足は、フェチが見たらさぞかし興奮するだろうという 曲線美と美白なんて言葉が囁かれているこの時代の女性が見たら うらやましがる位には肌がきめ細かい。
ここまで表現してさそがし、美しい女性かと思うだろうが彼は男 で自分も男でガチな関係で有る。
(俺は女の子大好きだけど、こいつってその気あんのかな)
自分の恋人はタチかネコかで言ったらタチなので、つっこみたい願望は 有るんだろうなぁ。とまで考えて、盛大にため息をついた。
(薔薇を持ってると本当の王子様っぽいのになんでこいつ いつも朝起きると首と足が逆向きなんだろ?)
今まで貯めたトキメキポイントが一気に目減りした瞬間である、 恋人はいつもそうだ。いつもどころの話じゃないいつもいつもいつも 位である。
昨日は、恋人の誕生日だからこうやってお祝いしていて いつも会えないからとか言って薔薇を持って予約をしたレストランで 待っていた。
女性でも無いのに、激しくトキメキすぎて倒れてしまいそうだと思った 自分に目を覚ませと告げたい。
付き合い始めた頃からそうだった。
彼と恋人同士になったのは成人式ちょっと前である、 その前からも肉体関係は有ったが (ここまで書いてどうなってるんだ?と思われた方は正常だと思う) 本気で付き合おうとなった時に彼に言われた。

「これからは、ずっと僕と一緒に居てください」

嬉しかった、世界大戦とかマフィアの纖滅だとかそんな事ばかりを 考えていた男の心に何かを、自分みたいな人間が投じれたとかと思うと 顔が赤くなったのを思い出す。
そして、そっと手を握り本当に心と体を繋げた次の日に、 彼はボンゴレ本部にテロ行為を行って、厳重注意人物になった。 本当に彼は自分と付き合って行こうとしているのか もの凄く不安になったのを今でも覚えている、 まさか骸と付き合ってるんだなんて口が裂けても言えない期間が、 何年続いただろう?
それでも、健気に隠していたと言うのに彼は自分が恋人だという アピールをもの凄くしたかったらしい、バレンタインに守護者達の 目の前で「僕の気持ちです、受け取ってください」そうやって 甘く囁いて、彼は淡い赤色のリボンを纏った包みを渡してきた。
ついに、認められようと彼もがんばってくれる気持ちになったのかと ドキドキしながら包みを開けると中は黒い箱で、 蓋を開けると目があった。
何かの物体と。
体が硬直した、目の前の骸はそれはそれは満足げなのでおそるおそる 見ると目玉が二つ黒い箱の中に収まっている。
叫んで箱を落としそうになるのを、右腕がキャッチしてくれたが、 その右腕も箱の中身に盛大に顔をしかめていたので、 ああやっぱりそうなるかと思った。

「おい、骸!なんだこりゃあ、どっかで狩って来た殺し屋かなんかか?」
「クフフ、嫌ですねぇ。それはチョコレートですよ」
「幻覚でも使ってんのか?」
「なにを言ってるのです、精巧に作った目玉型のチョコレートですよ」

右腕から黒い箱を受け取って、近くに有った皿に乗せると、 果物の入ったかごからナイフを取り出す。
目の前に有るのは、皿に乗せられた目玉とナイフを持つマフィア 殺しなんてあだ名を持つ男。
グロテスクかつシュールである、目玉に向かって ナイフを降りおろした。目玉はごりっと音を立てて二つに割れた。 その中身は確かにチョコレートで、かすかにオレンジリキュールの 爽やかな香りが鼻をくすぐる。
だが、目玉を真っ二つにしている様な錯覚を起こして、 ランボは目を開けたまま意識がどこかへ旅立っており、 雲雀恭弥も悪趣味極まり無いと言いたそうな顔でこちらを見ている。 その中で空気というものを感じない二人の会話が聞こえた。

「お、この目玉。赤と青の色違いだな」
「骸とお揃いなのなー」
「クフフフフフフフ、僕を食べてという意味をこめましたからね!」

骸は、頬を紅色に染めて居るが右腕はどん引きかつなんて手の込んだ 嫌がらせだよとつぶやき、雲雀はもうやだこの南国果実早く 焼却処分してよと軽蔑十割の口調で言い放った。
(ねぇ、骸……これで更に俺たちが付き合ってるっ てカミングアウトしにくくなったって気がついてる?)

「しかも、このチョコレートはクロームとの合作ですよ」

頼む、頼みますから六道さん。そんな絶対に食べなきゃならない情 報を嬉々として言ってくるのは勘弁してください。しかも、手作りかよ。この器用さは別の所に持っていってくれよと頭の中で延々と考えながら、守護者の視線を一番怖いと思ったバレンタインだった。
付き合った記念日、バレンタインと悉く思い出をクラッシュしてきた (ここまでくると強姦に近い)この男は、誕生日にウツボカズラを 贈って来たことがある。
メッセージカードには「君に近づく人間は早く地獄に堕ちるがいい」 と赤いインクで殴り書きしてあった。
イチイチ残念な男だと何回思っただろう?
だから、首と足が反対な位は何でも無いのだと思い直して、 布団を捲るとムカつく位のイケメンフェイスがこんにちはする。
時間的にももうこんにちはの時間だ、鬼の家庭教師様には 今夜は愛人としっぽり過ごすとか言ってきたが実際には 男としっぽりしているのだから、きっと殺されるに違いない。
光を認識したのか、長い睫が動く(世の女性の皆さんは長 くしようと必死なのにねー)そして、色違いの瞳がこちらを向いた。

「おはよう、骸」
「おはようございます」
「誕生日の日に渡せなくて悪かったけどさ、プレゼントがあるんだ」
「お忙しい君が祝ってくれるのですから、いつだって僕の誕生日ですよ」
「寝起きでよくそんな甘ったるい台詞が出てくるな」
「クフフ、それでプレゼントとはなんですか?」

急いで下着とズボンだけを履くと起きたと同時にフロントにお願い していた品を、高級品が乗ってそうなカートのような台車のようなも の(正式名称を俺は今も知らない)で骸の目の前に持ってくる。
それは、白い箱で小さくリボンもついていた。

「開けて」
「この大きさからするとケーキですね、君にしては気が利くでは 無いですか」

丁度食べたかったのですと言いながら、嬉しそうに箱を開けると そこには茶色く変色した骸骨があった。
土に埋まったのを掘り出したかの様な質感、色、劣化具合、 普通の神経の人間ならば思わず顔を背けるかしかめるかするだろうが、 六道骸の顔色はみるみるうちに明るくなりまるで輝いているかのようだ。
(バレンタインの復讐のつもりだったけど、なんか喜んでるよ…… コイツ)
思わずこっちが引きそうになったが、グッとこらえてケーキナイフ を持つ。

「中はね、イチゴのスポンジにチョコクリームなんだ。コーティング はホワイトチョコでね、なんか内臓のケーキもあったけど骸のイメージ で選んでみた」

ドクロの後頭部にナイフを入れると毒々しいピンクが顔を覗かせる。
骸はきらきらした瞳で、まるで本当の肉を切ってるような色ですねと 言ったので色々想像してしまった。
これでは、復讐では無くて本当にこちらがダメージを受けるばかり ではないかと思っていると骸が後ろにやってきて、ナイフに手を添える。

「こうしてると、まるで結婚披露宴ですね」

語尾にハートが見えた気がした、紅茶も毒々しい色がでると 言われたものを用意してきたのだがこの調子ではそれ も目の前の奴にとってはトキメキポイントの一つにしかならな いであろう。
(本当になんでこんな奴好きになったんだろ)
目減りしていくトキメキを静かに見守りながら、 子供の様にケーキにはしゃぐ姿もかわいいと思ってしまう自分は もうダメだと悟ったので、座って食べよ?と誘うと音を立ててキスを された。
どうやら、夜までには帰れると思った算段も崩れてしまうと頭の隅 で思いながらキスを受ける。



fin.





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